第845回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)

下記の通り、柳田 圭介 先生によるセミナーを開催します。皆様のご来聴を心より歓迎致します。


演題 / Title

脳固有の血管機能を支える脂質の特殊性

演者 / Speaker

柳田 圭介 先生
東京慈恵会医科大学 分子生物学講座・教授

日時 / Date

2024年9月30日(月)
17:00〜18:00

場所 / Venue

病院キャンパス 総合研究棟 1階 講義室 101
以下の地図の34番です。
キャンパスマップ

要 旨 / Abstract

 全身を隈なく巡る血管には、分布する臓器に応じて固有の機能が付与されており、これによりそれぞれの臓器に特徴的な機能的要望に応じている。なかでも脳血管は極めて個性的であり、例えば多種のトランスポーターを発現し、これにより絶え間ない神経活動に必要な大量の栄養・エネルギーを担保している。その一方で、血液脳関門 (BBB) とよばれる強固なバリア機能があり、これにより脆弱な神経細胞を血液成分から守っている。これら脳に固有な血管機能の破綻は、アルツハイマー病や脳梗塞をはじめとする様々な神経疾患の原因となる。一方、生理的なBBBの存在は、脳内薬物送達の大きな障壁にもなり、BBB通過性は創薬における最重要課題の1つである。このような背景から、BBBをはじめとする脳固有の血管機能の成り立ちや分子メカニズムについて世界中で盛んに研究が進められている。しかしながら、なかなか突破口が開けておらず、未解明問題が数多く残っているのが現状である。
 脳固有の血管機能を担保するメカニズムについて明らかにするため、血管の最内層を構成する血管内皮細胞に注目した。脳固有に発現する血管内皮細胞遺伝子について検証したところ、その多くが脂質代謝関連遺伝子であることがわかった。リピドミクスにより各種臓器由来の血管内皮細胞の脂質組成を調べた結果、脳血管内皮細胞は極めて特殊な脂質組成を有することが明らかとなった。以上の背景から、「脳血管の個性がその特徴的な脂質組成により創出される」という新しい仮説を立て、これを証明すべく研究を進めている。実際に、遺伝子改変マウスの解析およびリピドミクスにより、脳固有の血管内皮脂質代謝がBBBの成立に必須であること、さらには脳血管内皮に特徴的な遺伝子発現上の個性を生み出すことが明らかとなってきた。本セミナーでは、「脳血管の個性が創出されるのか?」という大きな謎へ脂質研究者としての取り組みについて紹介する。

参考論文 / References

  1. Yanagida K. et al. Pharmacol Ther. 2023;246:108421.
  2. Yanagida K. et al. Hum Mol Genet. 2023;32(5):825-834.
  3. Yanagida K. et al. Dev Cell 2020;52(6):779-793.e7.
  4. Yanagida K. et al. JCI Insight 2018;3(24):e97293.
  5. Yanagida K. et al. PNAS 2017;114(17):4531-4536.
  6. Yanagida K. et al. Annu Rev Physiol. 2017;79:67-91.

連絡先 / Contact

生体防御医学研究所 分子神経免疫学分野
増田 隆博
092 (642) 6800