転写バースト

転写は細胞内に1または2コピーしかない遺伝子上で行われます.また多くの遺伝子では,連続的に転写されるON状態と,ほとんど転写が行われないOFF状態が確率的に切り替わります.この現象を転写バーストと呼びます.

図1. 転写バースト.左パネルは、マウスES細胞の特定のRNA分子を1分子RNA-FISH (smFISH)で緑色に、細胞核を白色で可視化したものである.ON状態の遺伝子領域では強い輝点が認められる.白い実線は細胞膜を示し,白い点線で囲まれた領域は細胞核である.右パネルは遺伝子発現の模式図を示す.

転写バーストの動態はプロモーターのON状態の割合を表すバースト頻度と,1回のON状態での平均mRNA発現量を示すバーストサイズで記述できます.さらに,RNA分解速度も明らかになれば,細胞内の平均RNA分子数とRNA発現量の細胞間多様性の大きさ(後述)を見積もることもできます.RNA分解速度と平均mRNA分子数が同じであれば,バースト頻度が低くバーストサイズが大きい遺伝子は,その逆の遺伝子よりも遺伝子発現量の細胞間多様性が大きくなります.

図2. 転写バーストによる遺伝子発現量の細胞間多様性の誘引.(A) RNA分解速度を一定にした場合の,バーストサイズ,バースト頻度,細胞内平均RNA分子数,遺伝子発現量の細胞間多様性の関係.点線は、細胞内の平均RNA分子数が同じであることを、点線の色は細胞内の平均RNA分子数の違いを意味する。(B) 転写バーストは,対立遺伝子間での遺伝子発現量の多様性も誘引する.(C) 1細胞レベルでの対立遺伝子ごとの発現量分布からintrinsic noiseを見積もることができる.一つの点は1つの細胞における各対立遺伝子由来のmRNA数を示す.


すなわち,転写バーストは遺伝子発現量の細胞間多様性を生み出す要因となりえます.また転写バーストは,同一細胞内にある対立遺伝子間での遺伝子発現量多様性さえ誘引します(図2B).このことから,転写バーストによって生じる遺伝子発現量多様性の出現要因(noise)は細胞内部で生じる要因であるintrinsic noiseに分類されます.それ以外の要因 (別の遺伝子の発現量の細胞間多様性によって誘引される遺伝子発現量の多様性や細胞間相互作用等に起因する要因)はextrinsic noiseと呼ばれます.intrinsic noiseとextrinsic noiseは,対立遺伝子間の発現量の分布から見積もることができます(図2C).遺伝子によってバーストサイズ,バースト頻度,intrinsic noiseは大きく異なっていることが知られていましたが,これらがどのような分子機構で制御されているかは明らかにされていませんでした.