第708回 生医研セミナー(多階層生体防御システム拠点)
ヌクレオチドプール研究センターセミナー

生体防御医学研究所 防御分子構築学分野 客員准教授の松本明郎博士にセミナーをお願いしました。
 今回のセミナーでは、感染防御系としての腸管における一酸化窒素(NO)バリアについての研究成果をご講演いただきます。皆様、是非ご来聴下さい。

演題

マウス腸管内におけるNO産生と感染防御系としての役割

演者

松本 明郎 先生
千葉大学大学院・医学研究院・薬理学 准教授

日時

2016年 2月24日(水)13:30~15:00

場所

九州大学 病院キャンパス内 生体防御医学研究所 本館1階 会議室
以下の地図の24番の建物になります。
(http://www.kyushu-u.ac.jp/access/map/hospital/hospital.html)

要旨

高等生物は,感染症に対して食細胞や液性免疫を介した多段階の防御機構を有する。 摂食により必然的に細菌等の侵入を受ける消化管では,病原細菌の増殖を防ぐ一方,常在細菌叢を形成する多階層の腸管免疫系が形成されている。免疫系の第一段階を担う食細胞はNO等のフリーラジカルを産生し,貪食後の殺菌に利用する一方,細菌等は自己防御機構としてNO消去酵素を有していることが知られている。我々は腸管出血性大腸菌感染をモデルとして,感染大腸菌が有するNO消去活性が臨床的重症度と相関することを報告し,NOによる防御系を回避できた菌が腸内へ侵入し,病原性を発揮したと考えた。しかし,とりわけ小腸におけるNO産生や感染防御機構の存在については明らかではない。
腸管内で作用しているNOをin vivoで測定し,感染防御系への関与を明らかにすることを目的として以下の検討を行った。共同研究者らが開発したNOプローブ(NO暴露量に応じた化学発光を示す)を大腸菌に組み込むことにより,菌体内部で作用しているNO濃度を測定することが可能になった。この大腸菌を用い,小腸から大腸にかけてのNO産生量をin vivoで測定するマウス腸管モデルを確立した。このモデルでは,腸管内に残存する菌数を測定することにより,部位別のNO産生量と殺菌能を直接比較検討することが可能となった。
このモデルを用いた解析により,従来のNO合成酵素の発現量を指標とした解析ではなく,NO産生量や殺菌能といった機能的な解析が可能となった。その結果,部位特異的に産生されたNOが腸管の感染防御バリアを形成していることが明らかにされた。すなわち,細菌は腸管内腔を移動しNOバリアを通過する際に殺菌される。一方,NOバリアに機能不全が生じると,殺菌能力が低下し,腸内細菌叢が不安定化する。腸管はNOを産生することにより,食細胞や液性免疫を介さない防御系を構築していることが示唆された。

連絡先

九州大学 生体防御医学研究所 脳機能制御学分野
中別府 雄作
電話:092-642-6800