第793回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)

下記の通り、横溝 岳彦 先生によるセミナーを開催致します。皆様のご来聴を心より歓迎いたします。

演題 / Title

生理活性脂質と眼疾患

演者 / Speaker

横溝 岳彦 医学博士
順天堂大学 医学部・教授

日時 / Date

2019年7月22日(月) Jul. 22 (Mon), 2019
17:00~18:30

場所 / Venue

病院キャンパス 総合研究棟 1階 セミナー室105
以下の地図の33番です。
(http://www.kyushu-u.ac.jp/f/35767/2019hospital_2.pdf)

Seminar Room 105, 1F, Biomedical Research Station, Hospital Campus
No.33 on the following linked map.
(http://www.kyushu-u.ac.jp/f/35768/2019hospital-en_2.pdf)

要 旨 / Abstract

眼疾患が直接、生命予後に関わることはまれであるが、失明や視野狭窄など、患者のQOLを大きく損なうことが社会問題となっている。一方、点眼薬が全身性の副作用を生じる事は少なく、創薬の観点からは魅力的な研究対象と考える事もできる。また、近年の質量分析計の高感度化に伴い、マウスの眼のような小さな臓器であっても、生理活性脂質の定量解析が可能となった。本講演ではマウス眼疾患モデル実験と質量分析による脂質解析結果を中心に、眼疾患における生理活性脂質の役割と創薬への展開についてお話ししたい。
 高親和性ロイコトリエンB4(LTB4)受容体BLT1は、好中球、好酸球、分化T細胞などの炎症細胞に発現するGタンパク質共役型受容体(GPCR)である(1)。Balb/c背景のBLT1欠損マウスにBLT1過剰発現細胞を免疫することで、高感度の抗マウスBLT1単クローン抗体7A8を樹立した(2)。本抗体を用いた解析からM2マクロファージにBLT1が発現していることが分かり、M2マクロファージが血管新生促進細胞として機能すること(3)から、加齢黄斑変性症(AMD)モデルを用いてBLT1の役割の解明を行った。BLT1欠損マウスでは、加齢に伴う病的血管新生が消失し、同時にM2マクロファージの網膜への集積が減弱していた。骨髄キメラマウスや、マクロファージ欠失実験などの結果、傷害網膜でLTB4が産生され、VEGFを産生するM2マクロファージを遊走させることで病的血管新生が生じていることが明らかとなった。LTB4産生酵素阻害薬やBLT1拮抗薬の投与によってAMDの病態が改善したことから、BLT1拮抗薬のAMDへの臨床応用が期待される(4)。昨年発表したBLT1のX線結晶構造解析(5)を元に、新規BLT1拮抗薬の構造展開を行っている。
 低親和性LTB4受容体として分子同定したGPCRであるBLT2は、アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼを介して産生される12-HHT(ヒドロキシヘプタデカトリエン酸)と呼ばれる脂肪酸でも活性化される。BLT2は皮膚や角膜などの上皮細胞に発現し、上皮細胞の移動を促進する(6)。非ステロイド性消炎鎮痛剤(ジクロフェナック)は角膜潰瘍の治療を遅延させるが、この遅延はBLT2欠損マウスでは観察されない。また、BLT2作働薬の点眼によって、角膜潰瘍の治癒が劇的に亢進した。以上より、角膜上皮細胞に発現するBLT2は、12-HHTによって活性化され、角膜障害の治癒を促進することが明らかとなった(7)
 魚油に豊富に含まれるオメガ3脂肪酸の抗炎症効果は古くから知られているが、その詳細な分子メカニズムや、眼疾患における効果は不明であった。そこで、マウスアレルギー性結膜炎モデル(花粉症モデル)を作製し、オメガ3脂肪酸を含有する亜麻仁油食の効果を検証した。亜麻仁油投与マウスでは好酸球の走化性因子として知られるLTB4やプロスタグランジンD2の産生が大きく減少し、局所への好酸球浸潤が減少した。結膜炎スコアやマウスひっかき行動も減弱していた。一方、IgE産生やIL-5, -13産生などのTh2応答には変化が無かったことから、オメガ3食が、免疫反応の変化を伴うこと無く、花粉症の症状を軽減させる可能性が示唆された(8)

参考論文 / References

  1. Yokomizo, T. et al. J Clin Invest, 128: 2691-2701 (2018)
  2. Sasaki, F. et al. Plos One, 12: e0185133 (2017)
  3. Zandi, S. et al. Cell Rep, 10: 1173-1186 (2015)
  4. Sasaki, F. et al. JCI Insight, 3: 96902 (2018)
  5. Hori, T. et al. Nat Chem Biol, 14: 262-269 (2018)
  6. Liu, M. et al. J Exp Med, 211: 1063-1078 (2014)
  7. Iwamoto, S. et al. Sci Rep, 7: 13267 (2017)
  8. Hirakata, T. et al. FASEB J, 33: 3392-3403 (2019)

連絡先 / Contact

生体防御医学研究所 メタボロミクス分野
馬場 健史
092(642)6171