第11回 (2009年度)・利根川進先生 (MIT・理研BSI)

松本 有樹修 (博士課程3年)

関東や関西で開かれる学会に参加すると、他大学の優秀な学生と話をする機会があります。素晴らしい業績を持っている人がたくさんいることもそうですが、それ以上にサイエンスというものを深く考えている人が多いことにショックを受けます。このような優秀な学生同士が常に切磋琢磨しあっているのに、僕はこの人たちに勝てるのだろうかと落ち込みます。自分の能力を高めるためには、常に自分より優秀な仲間や先輩たちとのディスカッションをするように心がけることが重要だと思います。そのためには、仲間同士、お互いに意識改革をしていくことが最も近道だと思っていました。

SSSの幹事をすることが決定してから、私はなんとかこのチャンスを活かしたいと思いました。日本人でもっとも偉大な生命科学者に御講演をお願いし、九州大学の若手研究者を鼓舞してもらい、それがきっかけになればいいと思いました。

利根川先生は、常に学生のアンケートにおいて強い要望があったにも関わらず、海外にいらっしゃることもあり、今まで御講演をお願いすることはありませんでした。そこで、偉大な先生にメールを差しあげることに不安を感じつつも、意を決し利根川先生に御講演の依頼をすることにしました。

「Dear Matsumoto-san」
利根川先生からの返信が来たときは全身鳥肌が立ち、興奮が収まりませんでした。

セミナー当日、利根川先生には若手研究者に対して熱いメッセージを伝えてほしいとだけお願いしました。
利根川先生のセミナーは、どうやって先生が成功を収めてきたかというMethodを具体的に説明してくれているかのようでした。がむしゃらなだけでは駄目であり、確実なWinning strategyを持つことが重要である。また、未だに衰えることのない先生の気迫からは、九州大学の若手研究者の方が元気を貰ったようでした。

御講演終了後に質疑応答の時間を30分設けていたのですが、質問が多く全員に質問していただくことができませんでした。その中、何とか利根川先生に質問したいと主張する熱い気持ちを持った学生がたくさんいたのを見て、今回のセミナーが意義のあるものであったと実感しました。

最後に「研究者になるための最も重要な資質は」という質問に対して、利根川先生は「Crazyさ」と仰いました。しかし、それは一般の人から見るとCrazyなのであり、科学者の視点から見ると、それがNormalでないといけないのだと思います。私たち九大の学生は、利根川先生のようなNormalな研究者を目指していくべきであると、強く感じました。

参加していただいた学生および先生方より御感想をいただきましたので、以下に紹介させていただきます。

今回で二回目のSSSでしたが、一流の先生方と直接討論できる機会があるのは、我々若い研究者にとってとても刺激になり、自分の将来像を考える上でとても勉強になります。
利根川先生に遥々アメリカからお越し頂き、また我々のような若輩者と真摯に向き合って下さって、本当に有り難く感じました。自分の生涯をかけるに値する研究テーマを見つけることの大切さや、現状の問題点を質問に変え、それに対して解答を与えるといったアプローチ、自然科学に対する飽くなき探究心といったことを学ばせて頂きました。これからも利根川先生から教わったことを心に抱きながら、研究生活を楽しんでいきたいと思います。

今回の御講演は利根川先生の学生時代から現在までの研究の歴史を振り返るものであり、非常に感銘を受けました。いろいろな人との出会いやどのように研究者人生を歩んでこられたのかなど学ぶべきところが多かったように思います。「まだ誰もしていない新しいことをする」という姿勢は先生の著書などで読んだことはあったのですが、それを肌で感じることができました。御講演後の懇親会でも抗体遺伝子の組み換えを発見したときのいきさつや脳研究に対する先生の思いなどが聞けたのは大変貴重でした。利根川先生のような超一流の先生と直接話ができることがSSSの醍醐味であるということを再認識した一日でした。

利根川先生の御講演を拝聴する機会ができたという瞬間から意気込み、その日を待ち望んだ当日、運よく争奪戦に打ち勝つことができ一番前の席で拝聴させていただきました。御講演は、先生の現在までの研究を当時の裏話を交えてお話しください、また、先生のサイエンスに対する姿勢及び考え方もお聞きすることができ、非常に有意義な時間を過ごさせていただきました。御講演の中で最も印象に残っているお言葉は、リスクを恐れるな!です。先生は京都大学理学部を出られてすぐにアメリカに留学され、当時設立されたばかりのカリフォルニア大学サンディエゴ校で最先端の分子生物学を学ばれております。当時は留学するだけでも大変なのに先生は学問に対する欲求心に純粋に従い、リスクを恐れずに挑んでおられます。先生のお言葉を、僕を含めリスクを負う勇気がない現代の若者に喝を入れていただいたと思い、今後の励みにさせていただければと考えております。利根川先生お越しいただきありがとうございました。貴重な体験をさせていただきました。

利根川先生のお話を伺うのは今回が2回目でした。前回は分子生物学的知識が全くなかったために先生がどんな人に影響されて研究してきたかという話を聞いてもわかりませんでした。しかし分子生物学を学び日々実験しているとこれまで先生が歩んできた道や考え方がよくわかりました。最低限の能力も大切だがその中で巡り合う師や先輩という存在が大切なのだと感じました。また、「研究者としてはクレイジーな方がいい」とい言葉は非常に心に残りました。自分がクレイジーなのか、クレイジーになれるのかはわかりませんが自分の決めた道をこれからも進んでいこうと思いました。

会場の空気を圧倒し自分の世界に引き込んでいく力は、流石超一流の研究者、ご講演の2時間があっという間でした。利根川先生の歩まれた道は知っていても、実際に先生の口から語られるといっそう重みを増して響いてきました。「どっちつかずはダメ。間違っていてもいい。確率は55%と45%でも、55%の方が絶対に良いと信じきれる勇気が必要。」優柔不断の私には特に響く言葉でした。他人がどう思おうと気にしない、自分の信じた道をひたすらに貫き通す”CRAZY”さを持って、これから頑張っていこうと思いました。

利根川進。この名前を知らない科学者はいないだろう。そんな世界のスーパスターが、普段我々が使用している生医研会議室で講演をしてくださり、さらにランチまでご一緒に!! SSS。あぁ、何て素晴らしい企画。改めて思い知らされました。
「研究者たるものcrazyであれ」おそらく今回の講演のキーワードの一つだと思われますが、それ以上に私は利根川先生の確固たる信念に基づいた決断力と行動力に度肝を抜かれました。免疫の分野でノーベル賞を取られた後、研究テーマを脳神経科学に移されたのも然る事ながら、20代前半で日本にはほとんど存在していなかった分子生物学を習得すべく、単身アメリカに武者修行、Ph.D. 取得の後、スイスの研究所へ。驚くべきことに、免疫の研究はこのスイスでゼロから始められたとのことで・・・常人の私には信じられないストーリーが次々に飛び出し、利根川先生と過ごした4時間はあっという間に過ぎました。
人生には大きな決断を下さなければならい時がやってくる。そんなとき、それがriskyな選択だったしても、自分がそれまでに培ってきた自信をほんの少しでも勇気に変え、局面を打開したとき、そこには素晴らしい出会いと新しい挑戦が待っている。身に染みるメッセージです。雲の上のさらにそのまた上にいらっしゃるような利根川先生と過ごせた時間を一生忘れることはできないでしょう。本当に貴重な時間をありがとうございました。

今回のSSSは利根川先生に来ていただけるということで、私達は期待と興奮と緊張を感じながらセミナーを楽しみにしていました。しかしご講演が始まると、時折、会場内が笑いに包まれるような和やかな雰囲気で、お話をしていただけました。
研究者として必要な事、科学に対する考え方、研究の戦略など、たくさんの貴重なアドバイス(刺激的なものも多々w)をいただくことができました。特にその中でも、利根川先生の「おもしろい科学」だけを追い求めていらっしゃる姿勢に感銘を受けました。その大きな背中を追いかけ、自分も一流の研究者になるのだ!と、自分を奮起させるよい機会となりました。
今回は会場が狭かったおかげもあり、間近で超一流の研究者である利根川先生のご講演を拝聴できるという、またとない至上の体験ができたと思います。

利根川進先生をお迎えするという一生に一度の機会に恵まれ、夢のような時間を過ごさせていただきました。ご講演とその後のご歓談を通して本当に間近に拝見させていただいて、利根川先生はとてもナチュラルな方だなと感じました。ご自分の信条を貫きながら自然体で研究に望むことで、長いjourneyを今でも続けていらっしゃる。肩書きに圧倒されて異次元の存在に思っていましたが、とても身近に感じられ、(おこがましい限りですが)先生の背中を追いかけたいと自然に思えました。私も自分なりのjourneyを続け、そして利根川先生に少しでも近づくために、何に最も集中すべきかを常に意識し、勇気を持った選択をしていきたいと思います。

学部3年生の時に免疫学の授業で、免疫学の教授から抗体の多様性の話を聞ききました。
多種多様の外来の抗原に対して、生体はその多種多様な外来抗原を認識するために、その数を遥かに上回る多種多様な抗体を産生している。その仕組みを解明したのが日本人なんだと興奮気味に2コマを割いて話をしてくれたその授業は今も鮮明に記憶に残っています。以来まるで一つの独自の社会を作り上げているかのような免疫学の世界に大きな関心を持ち、その面白さに心を揺さぶられ、研究の道を選んだといっても過言ではありません。利根川先生は僕が今この道を進んでいるきっかけを間接的に与えてくださった方なのです。その利根川先生にお会いできる機会が来るとは全く思ってもいませんでした。SSSで利根川先生とお会いして、人に感動や興奮を与えるような研究をする事が出来る人とはどういう人のかを肌で感じることが出来ました。サイエンスが好きで、面白いことが好きで、そのことに集中できる。簡単そうに見えて、ほとんどの人が実践できない事を、いまだに実践されている、利根川先生はそんな方でした。そして僕の拙い質問にも真剣に答えてくださり、サジェスチョンを与えてくださる利根川先生に『科学者かくあるべきだ』のモデルを見た気がします。タイトなスケジュールを縫って、こんな貴重な機会を与えてくださった利根川先生に心から感謝を申し上げたいです。

九州大学 生体防御医学研究所
分子発現制御学分野
松本 有樹修 (博士課程3年)