第563回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)
グローバルCOE理医連携セミナー

下記のとおり、清水博之先生によるセミナーを開催致します。清水博之先生は世界におけるヒトエンテロウイルス研究のリーダーのおひとりです。 今回は先生のご研究の最新の課題を提供していただけます。 皆様の積極的なご参加をお待ちしています。

日時平成22年11月17日(水)18時より19時まで

場所馬出医学系キャンパス内 総合研究棟 講義室 101
以下の地図の1番になります。
http://www.kyushu-u.ac.jp/access/map/hospital/hospital.html

演題 エンテロウイルス71特異的受容体PSGL-1の同定とウイルス-受容体相互作用の解析

演者清水 博之 先生
国立感染症研究所ウイルス第2部 第2室 室長

要旨 ヒトエンテロウイルスは、現在まで、100あまりの血清型が同定されており、不顕性感染から一般的な発熱性疾患である無菌性髄膜炎や手足口病、さらには、急性脳炎からポリオにいたるまで、多様なヒト疾患の発症に関与する。WHO西太平洋地域は、10年以上にわたりポリオフリーを維持しているが、1990年代後半から、ポリオ流行の終息と入れ替わるように、エンテロウイルス71(EV71)による、多くの死亡例を含む大規模な手足口病流行が多発し、大きな公衆衛生上の脅威となっている。
 EV71感染および病原性発現の分子機構を解析する手かがりとして、我々は、EV71特異的宿主受容体の同定を試み、Jurkat細胞から調整したcDNAライブラリから、EV71結合因子であるP-selectin glycoprotein ligand-1(PSGL-1)を同定した。EV71非感受性マウスL細胞表面にヒトPSGL-1を発現したところ、L細胞はEV71感受性を獲得し、PSGL-1のN末端を認識する抗体によりEV71増殖が効果的に抑制されたことから、ヒトPSGL-1は、EV71の機能的受容体のひとつであることが示された。PSGL-1は主として、T細胞、単球、樹状細胞等の免疫細胞に発現し、セレクチンやケモカインとの相互作用を介して、炎症初期過程で重要な役割を果たしている。PSGL-1と各種リガンドの相互作用の分子的基盤については、すでに詳細に解析されており、PSGL-1のN末端領域の翻訳後修飾によるO型糖鎖およびチロシン硫酸化が、PSGL-1-リガンド相互作用に重要であることが明らかとなっている。PSGL-1への変異導入および硫酸化阻害剤sodium chlorateを用いた解析により、EV71とPSGL-1の相互作用には、PSGL-1へのO型糖鎖付加は必要ないが、PSGL-1のN末端領域のチロシン硫酸化が重要であることが明らかとなった。ウイルス受容体におけるチロシン硫酸化の重要性は、CCR5を介したHIV-1感染において報告されており、EV71-PSGL-1相互作用が二番目の知見である。
 山吉および小池らは、EV71感受性細胞であるRD細胞を用いて、PSGL-1とは構造および機能がまったく異なるhuman scavenger receptor class B, member 2 (SCARB2)が、EV71の受容体として機能することを明らかにした。SCARB2は神経細胞を含む多くの組織・細胞に発現しているが、PSGL-1の発現は主として免疫細胞に限られている。 また、これまで解析したすべてのEV71株はSCARB2を認識するが、EV71株の中には、PSGL-1を認識してPSGL-1依存的にJurkat細胞に感染する株と、PSGL-1と結合せずPSGL-1非依存的にJurkat細胞に感染するEV71株、および、PSGL-1と結合せず、かつ、Jurkat細胞でよく増殖しないEV71株が存在する。このため、PSGL-1およびSCARB2以外の受容体を介したEV71感染経路の存在が示唆されている。二種類(以上?)の異なるEV71受容体の同定は、EV71感染および病原性発現の分子的基盤解明のための第一歩として、また、EV71感染症の流行地であるアジア発の研究成果として、きわめて重要な知見である。とくに、EV71感染による手足口病、および、より重篤な中枢神経疾患発症における、異なるEV71受容体の機能の解明は、今後の重要な研究課題である。

連絡先生体防御医学研究所 ゲノム病態学分野
谷 憲三朗
電話:092-642-6434


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