第548回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)
グローバルCOE理医連携セミナー
高度先進医療センター(認定更新講習会対象)共同開催セミナー

下記のとおり、中村祐輔教授によるセミナーを開催致します。多くの皆様のご来聴をお待ちしております。

日時平成22年6月4日(金)午後6時より7時まで

場所九州大学 医学部 百年講堂 中ホール
以下の地図の10番になります。
http://www.kyushu-u.ac.jp/access/map/hospital/hospital.html

演題がんペプチドワクチン療法の課題と展望

演者中村 祐輔 教授
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター長
国立がん研究センター研究所長

要旨 ゲノム研究などの生命科学研究の成果が、創薬のありかたを大きく変えつつある。薬剤の概念も大きく広がり、低分子化合物や生物製剤に加え、抗体薬、ペプチドワクチン、核酸医薬(遺伝子、オリゴヌクレオチド、siRNA)、細胞療法など多様化しつつある。癌に関しては、外科療法・放射線療法・化学療法の3つの大きな柱となる治療法に加え、免疫療法は数十年にわたって第4の治療法と期待されつつも、抗体療法を別にすると、その科学的な実証が十分とは言い切れない。しかし、癌の大規模ゲノム解析によって、新規治療薬開発のキーワードである「有望標的分子」の探索が効率的に行われるようになり、癌免疫療法も非特異的な免疫誘導から、特異的な免疫誘導へと変化しつつある。また、癌患者のQOLの観点からも、副作用が少なく、より高い治療効果の期待できる抗癌剤開発を念頭においた有望標的分子の選別が極めて重要となってきていることは言を待たない。われわれは、1400症例以上の臨床材料を利用して、3万種類以上の遺伝子の発現情報解析を実施し、そのデータベース化を行うと共に、以下に示すような条件を満たす遺伝子・遺伝子産物に的を絞って癌ペプチドワクチン開発の標的(抗原)となる可能性のある分子の探索を進めてきた;(1)癌遺伝子的機能を有し、遺伝子産物量を減少させると細胞周期の停止、もしくは、アポトーシスが誘導される、(2)対象臓器の正常細胞のみならず、他の正常組織でも発現が無いか非常に少ない、(3)抗原性が高い。これらのスクリーニングを通して、約50種類の癌胎児抗原や癌精巣抗原などの癌特異的蛋白を同定し、その情報をもとに細胞障害性T細胞誘導能の非常に高い癌ペプチドワクチンのスクリーニングを行い、多数のペプチド抗原を同定した。これまでに利用されていた抗原に比べ、癌精巣抗原・癌胎児抗原由来のペプチドワクチンは免疫誘導能がきわめて優れていると考えられる。これらのワクチンや血管新生因子をターゲットとしたワクチンを利用し、臨床統計学的・免疫学的に十分な評価を行うために、国内の約60の医療機関と連携して癌ペプチドワクチン臨床研究ネットワーク(Captivation Network)を構築し、安全性、免疫学的反応、そして臨床的な有効性を検証してきた。すでに1000症例以上の患者さんに投与し、ワクチンの安全性を確認すると共に、臨床学的効果と免疫学的反応の関係などを解析している。細胞障害性T細胞が誘導された患者群では、そうでない患者群に比して、50%生存期間が約2倍に延長するなどの知見が得られている。また、ワクチン単独治療例における腫瘍縮小症例も10%を超え、これまでの報告に比して有意に高くなっている。これら、われわれのゲノム研究の成果をもとにした癌のペプチドワクチン療法が「Hope」ではなく、現実として進展している状況を紹介する。

連絡先九州大学病院 先端分子細胞治療科
生体防御医学研究所 ゲノム病態学分野
谷 憲三朗
電話:092-642-6434


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