研究内容

エピジェネティックな調節はおもにゲノムやクロマチンの化学的な修飾や構造変換によってなされます。我々はその調節機構を分子的に調べています。また,哺乳類にはゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)やX染色体不活性化など,謎に満ちたエピジェネティックなシステムが存在します。さらに,エピジェネティクスの異常が原因となる病気もたくさん知られています。これらの解明も我々の重要なテーマです。

参考文献
「エピジェネティクス(Springer Reviews シリーズ)」
佐々木裕之編
シュプリンガーフェアラーク東京(2004)
「エピジェネティクス入門 −三毛猫の模様はどう決まるのか−
(岩波科学ライブラリー)」
佐々木裕之著
岩波書店(2005)
「Genomic Imprinting」
Editors: Hiroyuki Sasaki and Fumitoshi Ishino
Cytogenetic and Genome Research Vol.113, No.1-4, pp1-350, KARGER(2006)
「生まれつきの女王蜂はいない」
鵜木元香著
講談社(2016)
「もっとよくわかる!エピジェネティクス」
鵜木元香, 佐々木裕之著
実験医学別冊, 羊土社(2020)
参考動画
「DNAのメチル化維持機構〜細胞の形質が分裂を経ても正確に保たれる仕組み〜」
共同研究者の丸山修先生(芸術工学研究院 デザイン人間科学部門 准教授)の研究室に所属していた福嶋友人くんの作品です。

教授:佐々木 裕之
哺乳類のゲノムインプリンティングの機構と進化

哺乳類の遺伝子のなかには、父・母のいずれに由来するかを記憶し、その記憶に基づいて発現するか否か決めるものがあります。このような記憶は父母の配偶子形成過程でエピジェネティックな修飾により刷り込まれることが知られており、この遺伝子の記憶現象をゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)と呼びます。インプリンティングは哺乳類の発生に重大な影響を及ぼし、ヒトの遺伝病・先天異常・がんの発生と関連しています。私たちはDNAメチル化酵素の生殖細胞特異的ノックアウトや、インプリンティング遺伝子の制御配列のノックアウトにより、この現象の詳細な分子機構を明らかにすることを目指しています。また、比較ゲノム学的アプローチにより、如何なる理由で、どのようにしてこの現象が哺乳類で進化したのかを調べています。
業績リスト

准教授:鵜木 元香
タンパク-タンパク相互作用を介したエピジェネティック制御機構

私たちの体を構成するすべての細胞は同じゲノムDNAを有していますが、それぞれの細胞のDNAやDNAに巻きついたヒストンタンパク質には、その細胞固有のエピジェネティック修飾が施されています。このエピジェネティック修飾はどの遺伝子を使うかなどの目印であり、修飾酵素や脱修飾酵素によって書いたり消されたりされ、修飾を認識するリーダータンパク質によって読み取られます。私はそれらのエピジェネティック制御に関わるタンパク質の相互作用に興味を持っています。大学院生の時にUHRF1というタンパク質がDNAメチル化を認識することを発見して以来、UHRF1に興味を持って研究を続けてきましたが、最近は特定領域の反復配列のDNAメチル化が低下するICF症候群という免疫不全病の研究もおこなっています。ICF症候群の原因遺伝子はこれまでに4つ同定されていますが(2つは当研究室でエクソーム解析にて同定)、そのうちの3つはDNAメチル化酵素をコードしておらず、DNAメチル化酵素以外のタンパク質の変異がどのようにDNAメチル化に影響を及ぼすかを調べています。ICF症候群は稀な遺伝病ですが、この研究を発展させ、細胞の癌化のメカニズムや、免疫不全の理解に将来的につなげたいと考えています。
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助教:石内 崇士(2015.10〜2021.9)
卵・初期胚に特有なエピゲノム状態はどうやってつくられるのだろう―全能性や細胞系譜決定の制御機構の理解を目指して―

卵子や受精後の初期胚は他の細胞には見ることのできない特殊な能力を持ちます。外来の体細胞核を1個の卵子に注入すると外来の核の遺伝情報を持った個体(クローン)が産生されます。この方法は体細胞核移植と呼ばれ、体細胞核が全能性核へとリプログラミングされます。また受精卵は1個の細胞ですが、この1個の細胞は完全な個体を作り出すことができます。ではこれらの細胞はなぜこのような魅力的な能力を持つことができるのでしょうか。この謎を解く手がかりとしてこれらの細胞のエピゲノム状態に注目しています。ほぼすべての細胞は同じ遺伝情報(ゲノム)を持つのに対し、個々の細胞は異なる‘エピ’ゲノム状態を保持し、これが支えとなって個々の細胞に特有の役割が付与されていると考えられています。私は卵子や初期胚のエピゲノム状態の制御機構を理解することでこれらの細胞がなぜ特殊な能力を持つのかを知りたいと思っています。
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准教授:一柳 健司(2007.4〜2016.6)
ゲノム・エピゲノム・表現型そして進化:レトロトランスポゾンのインパクト

ゲノム配列上に暗号化されている機能は、エピジェネティックな制御機構によって細胞ごとに適切なゲノム領域だけがデコードされます。従って同一ゲノムを持ってもエピジェネティックな状態が異なることで表現型が異なることもあります。そこで、個体間のエピジェネティックな状態の相違と表現型の相違の関係性、エピジェネティックな状態の相違が生み出されるメカニズム、及びこのような表現型分離と進化や種分化との関係性を理解するため、マウス亜種間(種内比較)およびヒト・チンパンジー間(種間比較)におけるゲノム多型、エピゲノム多型について解析を進めています。また、哺乳類ゲノムの約半分を占めるレトロトランスポゾンがエピゲノムのダイナミクスに深く関与しているのではないかと考え、同一種内におけるレトロトランスポゾンの挿入多型やエピジェネティック多型も網羅的に解析しています。
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准教授:佐渡 敬(1999.5〜2014.3)
哺乳類X染色体のエピジェネティックな活性制御機構

雌雄で性染色体構成を異にする生物においては、性染色体連鎖の遺伝子量を補償することが正常胚発生にきわめて重要です。ほ乳類の場合、X染色体を2本もつ雌(XX)の胚発生において、一方のX染色体をほぼ全域にわたって不活性にすることで、雄(XY)との間のX染色体連鎖遺伝子量の差を解消しています。このX染色体不活性化には、DNAやヒストンのエピジェネティックな修飾に加え、XistおよびTsixというnon-coding RNAが極めて重要な役割を果たしています。私たちは、X染色体不活性化をモデルとして、Non-coding RNAがDNAやヒストンのエピジェネティックな修飾、あるいはそれに関わる因子と協調的に不活性クロマチンを構築する機構を遺伝学的、細胞学的、分子生物学的、発生工学的手法を用いて明らかにしたいと考えています。
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